王子が帰ってきた。 戦は終わった。 平和が訪れた。
王子とともに始祖の地に赴き、ゴドウィン卿と対峙していたミアキスも、今こうして、すべてが始まる前のように姫の部屋に帰ってきた。
「あらためましてぇ、姫様、ただいま帰りましたぁ」 「ああ」 「連れませんねぇ。1年も離れ離れになっていたんですよぉ?私なんて姫様に会いたくて会いたくてどんなに枕を濡らしたことか…!!」 「恥ずかしいことを申すでない!!このた、たわけがっ」 「それなのに、王子にするみたいに抱きしめてもくれないなんて…寂しすぎますぅ」
口を尖らせるミアキスを、リムスレ
ーアは鼻で笑い飛ばす。
「ふん、何を言うておるのじゃ」 「姫様はぁ、私がいなくて寂しくなかったんですかぁ??」 「兄上に比べたら、全く、じゃ!!」 「あー!!それ、傷つきますぅ…」
姫様は私なんてどうでもいいんですね! 大げさに叫ぶ護衛を見やる。口元をにやり、と上げた。 戯けが、ともう一度言い放って。
「ミアキスはどこに行っても、必ずわらわの元に戻ってくるのじゃ。わかっているのじゃ。それなのに、なぜ寂しがる必要がある?わらわはミアキスのことを信じておる。ミアキスなら何があろうとも、わらわを置いて死んだりはしない。わらわを一人ぼっちになど、しないのじゃ。
・・・そうであろう?」
主の小さな小さな手が、ミアキスに向かって伸ばされる。 自信に満ちた瞳が、まっすぐ自分を見つめている。 思わず笑いがこみ上げた。
「だからわらわはミアキスの心配などせぬ。不安に思ったりもせぬ。たとえ目には見えなくとも、ミアキスの心は、いつでもわらわの傍におる」
「・・・仰る通りでございます、リムスレーア姫様」 跪いて、その手を取る。 その手の甲に口付けると、くすぐったそうに笑うリムスレーアの笑い声が聞こえた。
「お帰りなさいなのじゃ、ミアキス…」 その言葉尻に押し隠した想いに気付いて、ミアキスは顔を上げた。 目を瞑って、ずっと言うべきだったその言葉を告げる。
「ご安心くださいませ、姫様。このミアキス、もう二度と、貴女を一人には致しませぬ」 「・・・当たり前じゃ」
その言葉とともにぽたり、と降ってきた雫に微笑んで、立ち上がり様にミアキスはその小さい体を抱きしめた。
「雨が降ってきましたねぇ」 「・・・そうじゃな」
|