ひんにゅうのはなし





ひんにゅ うの話






 わたしがぽいぽいとぬぎすてた服を、ウーシュが順にひろいあげては洗濯籠にほうりこんだ。それをぼおっとながめていると、ちらりと視線を あげたウーシュと目があう。

「マメだねえ」

 べつに嫌味を言ったつもりでもなくたんなる感想をのべただけだったんだけど、上目遣いはながくはもたないで、すねたようにぷいっと顔がそらされた。思わ ずぱちぱちとまばたきをしてしまう。それからウーシュのとなりにしゃがんだ。せまい脱衣所で肩をよせると、ウーシュはもっとむこうをむいてしまう。

「はやく服ぬぎなよー」

 いっしょにお風呂なんて、わたしたちにとっては日常だった。それなのに最近のウーシュときたらたまにいやそうな顔をするので、わたしはちょっとつまらな い。服に手をかけて、うえから順番にボタンをはずしていった。そしたらウーシュはやめてってわたしのてのこうをぺちぺちたたいて、わたしはまたつまらなく なる。

「自分でできる」
「ぬぐのがおそいのがわるいんだよ」
「ねえさまがちらかしたの片付けてたから」
「そんなのあとでいいの」

 ふたりして、すぐにはだかになった。わたしがほうりなげた服はまたウーシュにひろわれて、洗濯籠におさまっている。ほんとにマメだ。

「さむい」

 こんなところでもたもたしてるからからだがひえちゃった。でそうになったくしゃみをがまんしてたら、ウーシュがわたしの手をひいて風呂場の戸をあけた。 ちぇ、急にしきりはじめちゃってさ。
 シャワーが、頭のうえからかけられた。ちょうどいい温度が音をたててふってくる。気持ちよくて一瞬気がぬけたけど、わたしはすぐに我にかえった。

「ウーシュも」

 ウーシュのもつシャワーをとりあげようとした。そしたらうまいことにげられて、あいかわらずあったかいお湯をわたしにばっかりかけてくる。ウーシュだっ てさむいだろうに、なにがまんしてるんだろう。
 むきになって手をのばす。そしたらウーシュもにげていく。ふたりして、夢中になっていた。もう半分くらいおふざけになっていて、すると油断してしまった みたい。ウーシュの足がすべる。あ、と思ったころには手がのびて、うしろへたおれていきそうになったウーシュをだきしめた。

「……」

 がしゃん、と音をたてておちたシャワーはまだお湯をながしつづけてよこたわっている。そのとなりで、わたしたちはぺたんとすわりこんでいた。

「……あ、あぶな」

 ほっと息をつき、腕のなかの妹を見る。ウーシュもわたしといっしょでおどろきに目を見開いている。ごめんねって言ったら、ウーシュもごめんって言った。 言ったらてれたのか、つぎははなしてって言う。なんだかかわいかったので、はなしてなんかやらない。

「じゃま」
「じゃまじゃないよ」

 腕のなかであばれるウーシュをもっとだきしめた。思わずくすくすと笑いがこみあげてきて、ウーシュはぷくっとほほをふくらませる。ちょっとからかいすぎ たかな。そう思ったところで、辛抱たまらなくなったらしいウーシュがぐっと腕に力をいれた。

「……あっ」

 でも、その力はすぐにぬかれることになる。だって、わたしの口からへんな声がでちゃったんだもの。

「……」

 へんに高くて、あまったるいひびき。空気がかたまることを肌で感じる。思わず、ウーシュをだく手をはなして自分の口をふさいだ。そしたらウーシュのびっ くりした顔が見えて、そのつぎにはわたしの胸にくっついてるふたつのてのひらを見つけた。わたしがそこに視線をおとしてることに気づいたウーシュは、はじ かれるように手をはなす。

「……、なんだろいまの」

 つぶやいてみたはいいんだけど、なんだか急にはずかしさがわいてきた。だって、ウーシュがへんな顔してるんだ。いっきにほほがあつくなる。でもウーシュ は、わたしのこと見てばっかり。

「う、ウーシュがへんなとこさわるからだよ」
「…ごめん」

 あやまらせてしまった。なにやってるんだろう。ウーシュはわるくないのに。はずかしさとかもうしわけなさとか、ひょっとしたらちょっとのいらだちとかが ぐるぐる頭のなかをまわっていた。わたしはどうしようもなくなって、だからつぎにへんなことしちゃうのもしかたなかったんだ。

「…え、あ」

 声にはださずに言いわけして、こんどはわたしがウーシュにさわった。ふくらみなんて全然かんじられないそこは、それでもとてもやわらかい。すこしだけく もった眼鏡のしたで、ウーシュの顔が赤くなる。その表情がもっと見たくてそれをはずした。こうすれば、むこうにはわたしの顔は見えなくなるしちょうどよ かった。

「んっ」

 てのひらに力をこめたら、ウーシュがきゅっと目をとじた。さっきのわたしみたいなあまい声、かわいい声。急に心臓がどきどきしはじめた。やわやわと、指 をうごかす。ウーシュは首をふった。

「こ、こんなことするの、へん」
「うん……」

 うなずいておいて、やめられない。ふるえるウーシュの顔を間近からのぞいた。吐息がふれあうくらいの距離、こんなにちかづいたら、わたしも真っ赤なのば れちゃう。それなのに、くっついていかずにはいられなかった。

「…あ、んっ」

 こんどは逆襲にあった。さっきよりもつよく、ウーシュがわたしにふれる。おなじくぺったんこの胸、きっと心臓の音がてのひらにつたわっていた。ざあざあ とシャワーからお湯でたままで、床によこたわるそれはわたしたちの膝元をあたためる。それだけで充分だった、だって、ふたりでふれあえばシャワーなんかい らないくらいにあつくてたまらなくなるんだ。

「…、ど、どうしよう、ねえ、どうしよう……」
「しらない、しらない……」

 なにがおこってるのかわからない、じわじわと熱は全身にひろがっていた。勝手におでこ同士がはりついて、鼻先もこすれあった。胸によせあった手をはさん で、肩も膝も、キスしてるようにくっついている。そうだ、キス、したいんだ。なきそうな顔をしたウーシュも、きっとおなじことを考えてる。だってその証拠 に唇がさみしそうにふるえてる、こんなにあついなかで、さむそうなくらいに。
 どちらともなく吐息がもれる、かすかなそれは、お互いをひきよせた。瞬間。

「こら、いつまではいってるの。風邪ひくからちゃっちゃとしなさい」

 とんとん、というノックといっしょに、かあさまの声。悲鳴がでるかと思うほどびっくりして、とびあがってウーシュからはなれる。と、ウーシュもとびのい ているのが視界のはしにうつった。

「う、うん。わかってる」

 かあさまになんとか返事をすると、脱衣所にたっていたひとかげはさっさときえる。けど、急におとずれた気まずい空気はぽっかりここにうかんだままだ。顔 は見れない、声はかけられない。おまけにへんな汗までかいてきた。

「……」

 とりあえず、シャワーひろわないと。それから頭あらって、からだあらって、そんで、それから……。やることはうかんで、だけどそれからなにをしていつの まに風呂場から退散したのかは覚えていない。それはきっと、ウーシュもいっしょなのだった。

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「……んあ」

 自分のまぬけな声で目がさめて、ぼんやりまばたきするとそのむこうにトゥルーデがいた。あれ、ってまたまぬけな声がでて、そしたらトゥルーデがわたしの 頭をぽんぽんってした。

「あ、ごめん。ねちゃった」

 きょろきょろまわりを見わたしたら、そこはトゥルーデの部屋だった。ベッドのうえでふたりしてよこたわってくっついて、時計は夜中をしめしていた。おぼ えているのは、きょうはいっしょにねようか、なんて言ってベッドにはいって、ちょっと妙な空気になったところまで。どうやらわたしは、キスもしないうちに 眠気にまけちゃったみたい。

「おやすみ」

 ぺたん、とトゥルーデの手がわたしの視界をおおう。つぎにはシーツをひっぱってこられてちょっとあせる。あーあ、すねちゃった。

「ねないよー」
「いや、いままさにねてただろ」
「もうねないんだよ」

 シーツもトゥルーデのてのひらもおしやって、だきついた。そしたらだきしめかえされて、やわらかさにくらくらきた。

「夢見たんだ。むかしの。ウーシュとの」
「……ふうん」

 そっけない返事。でもほんとは興味あるみたいで、顔をのぞきこまれる。トゥルーデってばかだな。すねてるなら最後までそれをとおさないと、わたしちゃん とあやまってあげないよ。

「へんな夢だった」
「むかしの思い出なのに?」

 うん、つまりは、へんな思い出ってことでして。そういえば、あれからお風呂にはいっしょにはいらなくなったなあ。くわしく言う気なんてなかったから、さ きをうながす視線からにげるようにしてまたトゥルーデの胸に顔をうずめた。ウーシュと全然ちがうな。でも、どっちもすごく気持ちがいい。そんなことを考え ていると、ふとあることを思いつく。せっかくまたわたしをだきしめようとしていたトゥルーデをおしやる。それから、ひょいと自分の胸元を見おろした。あ れっと思う。

「全然成長してない」

 夢のなかとかわらぬそれは、すとんと平らにちかかった。おかしいなあ。

「なにが」
「おっぱい」

 自分でぺたぺたやってみるけど、やっぱりぺったんこだった。トゥルーデはおっぱいっておまえなあなんてへんな顔でてれている。それは、ちょっとだけあの ときのウーシュとにていた。

「ウーシュもそだってないのかな。ねえ、トゥルーデ」
「し…しるか」

 おまえ、どんな夢見たんだよ。こんなくらいで真っ赤になっちゃったトゥルーデが、お説教みたいな口調になる。もしおしえたらどんな顔になるんだろう。 もっと赤くなるかな、それともびっくりして真っ青になっちゃうかも。

「ひみつだよー」

 だから、やさしいわたしはトゥルーデのひ弱な心臓にこれ以上負担をかけないように、お口にチャックをしておやすみの準備をすることにした。








いちかみさまにもらっちゃったそのいち!!!!!本当はずっとずっと 前にいただいていたのですが一人じめしてましたえへへへへへへへ!!!
うるりかですようるりか!!前についったーかなにかでお風呂DE天使な話をしてたらかいてくださいましたよまじかみさま!!!!!!わたしもういちさんの いそうな方向にあしむけてねない!!

2010/9/9





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