姉のようだと、彼女の笑顔を見る度に私はいつも思うのだった。

「ウルスラ、どうしたね?」
癖の強いブリタニア語とともに、彼女がにか、と笑って私を覗き込む。気付かれていた、 と私が軽く目を見開くと、
彼女は朗らかな笑みそのままに、私の頭をわしゃわしゃと 撫でる。私は口をつぐんでされるがままで――でも
どうしてか、嫌な気分では決して ないのだった。

しゃがみこんで、視線を合わせて。それでも彼女はそれ以上何も尋ねてこようとは しない。自分よりもずっと背の
低い私を慈しむように微かに目を細めて、そして私の 髪を撫でるのだ。当初は乱暴であったそれがいつのまにか
とてもとても優しいものに なっていることを、私は経験則からよく知っている。

姉のようだ、と、思うのは。
決して彼女と、自分の姉とを重ねているからではない。姿形は自分とそっくりでも、 ずぼらでやる気なしで私が
ついていないと何もしてくれなくて、そのくせ一度やる気を 起こしたら妙に器用なあの姉と、やる気ばかりが先立って、
なりふり構わず突っ込んでは 結局失敗して色んなものを壊して回るこの人とでは、誰がどう見ても似ついている はず
がない。
私の言う『姉』と言うのはそんな個人的なものではなくて、もっと形式的なものだった。 そう、世間一般で言われている
ような、姉のイメージ――私の中でそれが、この人 のようなそれだったのだ。

彼女はまだ何も言わない。ニコニコと笑ったまま、私の言葉を待っているかのよう。 私の寡黙さを知ってなお、彼女は
私の言葉をこうして待つことがたまにある。普段は 一人で捲し立てて、そうして満足するばかりだと言うのに。

「――キャサリン。」
ぽつ、と雫を落とすように彼女の名前を呟いたら、彼女の顔がなぜかぱあっと輝いた。 先ほどまでも笑みを浮かべて
いたけれど明らかに違う。違うと分かる、その笑顔。 照れ隠しなのだろうか、私の頭の横辺りに落ち着いていたその
大きな手が、また わしゃわしゃと大きく動いた。どうしたの?とばかりに首をかしげる私の心に、 どこまでもまっすぐ、
猪突猛進な彼女はなりふり構わず単機突撃をかましてくる。

「ウルスラの声、綺麗で好きね。だからもっともっと聞きたいって、いつも思うね。」

――そしてほら、被害が甚大でも全く気にすることなく、いつものように朗らかに 笑うのだ。
ああ、コアを打ち抜かれたネウロイはこんな気分なのだろうか。霧散して行く意識の片隅で、柄にもなくそんな感傷的な
ことを思う。

姉みたいとかじゃない。私にとってこの人は、もっと別の存在だ。なんと呼べば いいのかは、私にはまだ、皆目見当も
つかないけれど。

ぼんやりとした頭で仕返しとばかりに彼女の頭に手を伸ばしたら、存外にもふわふわと 柔らかく、なんとも良い心地だった。
どうしたね、ウルスラ。さきほどと同じことを 尋ねてくる彼女に今度こそ何か意味のある言葉を返そうと、そしてたまには
会話に しようと、懸命に頭の中から候補を引っ張り出すことにした。

見つかるかな?見つからないかもしれない。でもそうしたらきっとこの人が模範回答を くれるだろう。これからずっと、
いつまでもきっと。





すごい短いから保管庫に収納されない気がするしなにより携帯からぽちぽち打ってるのにいっぱいいっぱいで
名乗り忘れたからいいかなって。
出来ればちゃんと書き直して、改めて投下したいなあ、なんて思ってたり。



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